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民法改正

民法改正・保証人の保護に関する改正がされます

2020.01.10

「保証契約」とは、借金の返済や代金の支払などの債務を負う「主債務者」がその債務の支払をしない場合に、主債務者に代わって支払をする義務を負うことを約束する契約をいいます。

したがって、「保証人」は、主債務者の代わりに主債務者の負った債務を支払うよう債権者から求められることになります。そして、保証人が債権者に対して支払をしない場合には、保証人の自宅不動産が差押え・競売となったり、保証人の給与や預貯金が差し押さえられることがあるもので、保証人というものは、自分が債権者からお金を借りるわけではないのに、大きなリスクを負うことになります。

この保証について、保証人の保護のため、重要な改正がされています。

1 極度額の定めのない個人の根保証契約は無効

極度額を設定しなければ無効

「根保証契約」とは、一定の範囲に属する不特定の債務について保証する契約をいいます。 例えば、アパートを賃借するときに、その賃料など賃貸人に対して負担する全ての債務を親や親戚が保証する場合や、会社が取引をするときに、会社が取引先に対して負担する全ての債務を会社の社長や社長の親戚、知人が保証する場合が当たります。この場合、保証人となる時点では、実際にどれだけの債務が発生するのか、どれだけの金額について保証人として責任を負うのか分からず、保証人が想定外の債務を負う可能性は否定できません。

そこで、今回の改正において、個人(会社などの法人は含まれません)が保証人になる根保証契約については、保証人が支払の責任を負う金額の上限となる「極度額」を定めなければ、保証契約は無効となる、というルールができました。

この極度額は、保証契約をする時点において、「○○円」などと明確に書面等で定めておく必要があります。

なお、そもそも、金銭の貸渡しなどによって負担する債務を主債務の範囲に含む貸金等根保証契約については、平成16年の民法改正で同様の規制が定められておりますので、今回の改正での変更点は、不動産の賃貸借や事業上の債務などの根保証(上にあげたサンプル事例のような場合)にも、この極度額がなければ無効となるという規制が拡大されたという点です。

元本確定

一定の期日で区切り、その時点での債務額について保証人に返済義務があるとする期日を元本確定期日といい、元本確定を生じさせる原因となる事由を元本確定事由といいます。これらについても、改正民法で以下の通り定められました。

(1)元本確定期日

貸金等に関する個人の根保証においては、元本確定期日は最長でも5年、定めがなければ3年とされています。貸金等以外の根保証には適用されませんので、賃貸借等に関する根保証などには適用されません。

(2)元本確定事由

貸金等に関する個人の根保証については,以下の事由が元本確定事由とされています。

  1. 主債務者、保証人の財産についての強制執行
  2. 主債務者、保証人の破産
  3. 主債務者、保証人の死亡

賃貸借など、その他の個人の根保証については,以下の事由が元本確定事由とされています。

  1. 保証人の財産についての強制執行
  2. 保証人の破産
  3. 主債務者・保証人の死亡

つまり、主債務者の財産に強制執行がかけられたり、破産したりしたとしても、賃貸借物件は使用したり、居住し続けたりする例はあり、それにもかかわらず、賃貸借についての根保証が破産や強制執行の時点で切れてしまうのは不適当という議論で、主債務者の強制執行や破産が元本確定事由から除かれました。

2 公証人による保証意思確認手続の新設

法人や個人事業主が事業用の融資を受ける場合の保証契約では、その保証債務の額が多額となりがちです。

しかも、その事業に関与していない親戚や友人が、そのリスクを十分に理解せずに安易に保証人となってしまうことも少なくありません。

そこで、今回の改正では、個人が事業用の融資の保証人になろうとする場合には、公証人による保証意思の確認手続を経なければならないこととし、この確認手続を経ていない保証契約を無効としています。

この確認手続では、公証人が「保証意思宣明公正証書」を作成する必要があり、保証人となろうとする者は、締結前1か月以内に、自ら公証人の面前で保証意思を述べる必要があります。

なお、主債務者の事業と深い関係のある次のような方については、この確認手続は不要とされています。

  • 主債務者が法人である場合の理事、取締役、執行役等
  • 主債務者が法人である場合の総株主の議決権の過半数を有する者等
  • 主債務者が個人である場合の共同事業者、主債務者が行う事業に現に従事している主債務者の配偶者

現行法でも、金融庁が出している銀行等向けの監督指針で、経営に無関係な第三者の個人連帯保証人を求めないことが原則とされていましたが、法律上、公証を経なければ無効とされた点に意味があります。また、この監督指針で禁止されている範囲と、改正民法で公証不要とされる経営者保証の範囲は若干異なります。

3 情報提供義務の新設

保証契約における保証人のリスクの程度は、主債務者の財産・収支の状況に大きく左右されます。そこで、今回の改正においては、以下の通り情報提供義務が新設されました。

項目 保証契約締結時の情報提供義務 主債務の履行状況に関する情報提供義務 期限の利益喪失時の情報提供義務
義務を負うもの 主債務者 債権者 債権者
提供義務の内容 ①主債務者の財産及び収支の状況 ➁主債務以外に負担している債務の金額 ③主債務の担保の有無 ①主債務の元本及び利息等についての不履行の有無 ②残額 ③弁済期が到来しているものの額 主債務者が期限の利益を喪失したこと
対象となる契約 個人を保証人とする事業のために負担する債務を主債務とする保証契約、根保証契約 保証人が主債務者の委託を受けて保証した場合 保証人は個人に限らない。事業のためにも限らない 個人保証契約
義務違反の効果 保証人が誤認した場合取消(主債務者が知っていたか知り得た場合) 明記されていない 期限の利益喪失から通知までの遅延損害金を請求できない
留意点 法律上の提供義務の内容は抽象的であるため、どの程度の情報を提供すればこれを満たしたことになるのかは今後の課題 銀行等向け監督指針で定められていたものですが、法的義務として整備され、明確化 義務の期限は期限の利益喪失を知ってから2か月以内

保証に関する改正ポイントをまとめると以下の通りです。

  • 極度額の定めの無い個人の根保証契約については無効とされるため、賃貸借や事業上の債務についての根保証契約についても、具体的な金額を入れて極度額の定めを置く必要があります。
  • 経営者以外の個人が事業用の融資の保証人になろうとする場合には、公証人による保証意思の確認手続を経なければならないこととし、この確認手続を経ていない保証契約は無効とされます。
  • 保証に関しての様々な情報開示義務が法律上新設されました。

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