法務サポートコラム

【特別対談】アジア企業との取引の留意点とは

2019年12月16日配信

今回のテーマは、アジア企業とのクロスボーダー取引の専門家である、AsiaWise 法律事務所代表弁護士の久保光太郎氏と、当社代表の藤田との対談です。

 

日本の人口減少が続くなか、製造・仕入先として、または、新たな市場開拓を目指し、大企業だけではなく中堅中小企業においても、アジア企業との取引が増加しています。そうした状況を受け、今回は、アジア企業との取引の留意点について、久保弁護士に伺いました。

 

 

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藤田:アジア企業との取引のトラブルで一番多いものは何ですか。

数という意味では、きちんとした契約書を取り交わさずに取引をした結果、後になって期待したとおりの結果が得られなかった場合(たとえば、相手方が代金を支払ってくれなかった場合、売買の目的物の品質について相手方がクレームしてきた場合等)、解決の手立てがないというトラブルが多いと思います。アジア企業との取引では、多くの場合、英文契約書が用いられます。英文契約書は、はじめはとっつきにくく、日本語の契約書と比べると意味が取りにくいこともあるかもしれませんが、慣れてしまえばそんなに難しいことはないと思います。是非食わず嫌いせず、英文契約書を読んでみて、その内容を理解するよう努めて頂ければと思います。

 

藤田:債権回収が問題となる事案について、これを未然に防ぐためにはどのような手段をとればいいでしょうか。

今しがたお話しした通り、アジア企業との取引では、国内取引における以上に、契約書を取り交わしておくことの重要性が増します。注文書と請書だけで取引をしていると、いざ代金を支払ってくれなかった場合、代金回収にも一苦労するということになりかねません。契約書において、代金の支払時期や代金を支払わなかった場合どうなるのか(遅延利息、紛争解決条項等)を明確に書いておくことが、何より重要です。

 

藤田:契約の解除や終了について留意すべき点はどのような点でしょうか。

契約の終了条件については、どのような場合に契約を終了させることができるかを契約書中に明記しておくことが重要です。ある条項の違反があった場合、契約解除が可能なのか、それとも解除までは認めず損害賠償を請求できるにとどめておくのかについては、明確に定めておかないと、のちに契約解除の有効性をめぐって争いが生じるリスクがあります。
継続的契約等において契約期間を定める場合には、契約期間が満了した場合の処理、たとえば契約が自動更新されるのかそれとも特段の合意をしない限り終了するのか、また秘密保持条項等のように終了後も効力を存続させるべき条項がないか、といった点について、しっかり検討しておくことが必要です。

 

藤田:代理店契約などの継続的契約の終了についてはどうでしょうか。

代理店契約に関しては、国によっては、代理店を保護するための法制度を設け、外国企業等からの一方的な契約の終了を制限し、終了後に販売店・代理店が救済を受けることができるよう、種々の保護措置を講じていることがあります。どのような場合に代理店保護法制の適用対象となるか、具体的にどのような保護措置が講じられているかについては、国ごとに異なりますので、現地弁護士にあらかじめチェックを依頼することをおすすめします。私が経験したなかですと、インドネシアや中東諸国ではこの種の法律があったりするので、要注意です。

 

藤田:最近成長が著しいといわれるインドですが、この国の企業と契約交渉する場合の留意点は何でしょうか。

インド企業との交渉は、インド人の議論好きで粘り強い性質や難解な英語が相まって、タフな交渉となることが多いように思います。日本人はとかく遠慮しがちな傾向にありますが、たとえば口頭で議論する際、相手の話を途中で遮って話すことは、インドでは失礼にあたりません。黙っていると相手のペースにはまってしまいますので、こちらの言いたいことは相手の言葉を遮ってでもしっかり言うという姿勢でよいでしょう。また、契約条件の交渉の場面では、「まずは高めにボールを投げてみる」という方法も有効です。「こんな条件を提示してしまって相手の気を損ねないだろうか……」というような遠慮をする必要はないと思います。
英語に関しては、不安があるようならば通訳をつけるのが一番です。

 

藤田:いまだにやはり取引数が多い中国との契約についてはどうでしょうか。

中国企業との取引に関しては、書面を一切作成せず口頭の合意のみでやり取りしていることがよくあります。先ほどの説明と重複いたしますが、まずはきちんとした契約書を作成することが最優先です。
また、日本企業が中国企業から仕入れを行うようなケースでは、目的物の品質保証条項を契約書に入れておき、かつ、目的物に実際に不具合・契約不適合があった場合の措置(補償、交換、返品、契約解除など)を具体的に決めておくことが重要です。また、紛争解決条項に関して申しますと、仲裁を紛争解決手段とするのが一般的です。仮に訴訟を選択すると、たとえば日本の裁判所で日本企業が勝訴判決を得たとしても、その判決を中国で執行しようとした段階で、中国の裁判所が執行を認めないと判断するリスクがあるためです。他方で仲裁は、ニューヨーク条約(正式名称:外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約)の加盟国間であれば外国でも仲裁判断の執行が可能であるところ、日本も中国も加盟国となっているので、相互に仲裁判断の執行が可能です。

 

藤田:紛争解決条項に関して、クロスボーダー取引契約の締結交渉において留意すべき点は何かありますか。

クロスボーダー取引契約における紛争解決条項については、紛争解決手段を仲裁とした上で、各仲裁機関が公開しているモデル条項を用いることが多いです。仲裁以外の紛争解決手段、たとえば訴訟などを選択する場合には、どれくらい時間がかかる見込みか、判決を得た場合に執行できるかどうか、といった点を慎重に吟味することが必要不可欠です。
また、どの仲裁機関の仲裁規則を用いるか、仲裁手続の言語はどの言語を用いるか、仲裁人の人数や選任方法はどう決めるか……といった仲裁に関する取り決めの多くは、当事者間の合意(仲裁合意)において決定することができます。ところが、この仲裁合意の内容が不明確だと、紛争を解決するための仲裁をしようとするときに、仲裁合意の解釈をめぐってさらなる争いが生じるという本末転倒な事態を招いてしまいます。特段の必要がない限り、仲裁機関が公表しているモデル条項をそのまま使うほうがよいでしょう。

 

藤田:インドネシアの契約実務について気をつけるべき点はありますか。

インドネシアについて特徴的な点をひとつだけ挙げるとすれば、インドネシア人またはインドネシア法人と契約を締結する場合、インドネシア語で契約書を作成しなければならないという法律があります。これに違反してインドネシア語以外の言語だけで契約書を作成した結果、当該契約が無効と判断された裁判例があります。
したがって、契約書を作成する際には、インドネシア語版と英語版の契約書の両方を作成しておく必要があります。実務上、まずは英語版の契約書を作成しておき、事後に必要が生じた場合にインドネシア語版を作成するといった方策もみられますが、事後的に裁判所に効力を否定される可能性がゼロとはいえないため、その点には注意が必要だと思います。

 

藤田:インドネシア以外に現地語で契約を締結しなければならないという法律がある国はアジアであるのでしょうか。

私が知る限り、個別分野の法律(たとえば、登記の対象になる場合等)は別として、一般的に現地語でなければならないという法律がある国は、インドネシアくらいだと思います。私は日々、日系企業からアジアの取引契約の作成やレビューのご依頼をいただきますが、そのほとんどは英文契約です。日系企業の契約担当者としても、英文契約の基礎を理解している限り、それほど困ることはないのではないかと思います。

 

藤田:では、まとめとして、アジア新興国の取引契約において最も気をつけなければならない点は何でしょうか。

最も重要なのは、アジア新興国における取引上のリスクの所在について考えて、それを可能な限り契約書に織り込むということだと思います。アジア各国の契約法(民法)をすべて理解していなければならないということはありません。むしろ、ビジネス上のリスクがどこにあるのかを経験と想像力を駆使して考えてみることのほうがよっぽど重要です。リスク把握ができていれば、あとは英文契約にどのように落とし込むかというテクニックの問題になってくるので、それほど難しいことはないと思います。

 


Profile


AsiaWise Groupは、Cross-Border Professional Firm from Asiaをコンセプトとして、2018年、設立されました。東京のAsiaWise法律事務所、シンガポールのAsiaWise Cross-Border Consulting(IPファーム)をはじめ、インド(グルガオン、バンガロール)にはアソシエイトファーム(Wadhwa Law Offices)を有しており、多様なバックグラウンドをもったプロフェッショナルが日常的に協働し、シームレスなサービスを提供しております。
設立以来、インド、東南アジアのクロスボーダー案件に注力してまいりましたが、今後は新たなテクノロジー分野を中心にした中国業務も手掛けてまいります。

https://www.asiawise.legal/

 

 

久保 光太郎
AsiaWise Legal Japan 代表Chair of Legal Practice
弁護士 (日本)
    米国、インド、シンガポールにおける9年に及ぶ経験をもとに、インド、東南アジア等のクロスボーダー案件(現地進出・M&A、コンプライアンス、紛争等)を専門とする。

 


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