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新型コロナウイルス 関連

新型コロナウイルスの影響における独禁法・下請法の見直し点

2020.06.12

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今回も、前回に続いて新型コロナ感染症関連で、「新型コロナ感染症の影響と独占禁止法、下請法について」です。

新型コロナ感染症の影響で、一旦締結した契約書の内容について、見直しの必要が生じる場合も多く生じているようです。その場合、契約の相手方と十分に協議し、お互いに十分に納得したうえで契約内容を変更するというのが原則となりますが、その際に留意すべき法律として、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下、独占禁止法)下請代金支払遅延等防止法(以下、下請法)の2つの法律があります。

独占禁止法上の「優越的地位の濫用の禁止」

新型コロナウイルス感染症防止や、新型コロナウイルス流行に伴う需要の減少を理由として、業務を委託する下請事業者、個人事業主、フリーランスの委託業務報酬を減額したいという発注者も多いと思います。しかし、この行為は、場合によっては、独占禁止法第2条第9項第5号ハに規定する「優越的地位の濫用」に該当するおそれがあります。

独占禁止法 2条 第9項 第5号 ハ
第二条
9 この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう。
(中略)
五 自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること。
(中略)
ハ 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること。

契約書が定める委託業務報酬からの減額は、独占禁止法2条第9項第5号ハが例示する「減額」にあたるため、これが「優越的地位の濫用」によってなされたものに当たるかが問題となります。

公正取引委員会によると、「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して」とは、取引の相手方との関係で相対的に優越した地位であれば足りると解されます。

受託者にとって委託者との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障をきたすといえると、優越した地位に当たります。

この判断に当たっては、受託者の委託者に対する取引依存度、委託者の市場における地位、受託者にとっての取引先変更の可能性、その他委託者と取引することの必要性を示す具体的事実を総合的に考慮します(優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方,公正取引委員会,平成29年6月16日)。

受託者の売上高全体に占める委託側に対する売上高が大きいと取引依存度が高くなります。

また、委託者の業界におけるシェア率が高い場合は、委託者の市場における地位が強いということになります。そして、受託者が他の事業者と取引開始、取引拡大が困難になる場合は、受託者が委託者と取引を継続する必要性が高くなります。

このような事情があると、優越的地位が認められる可能性が高まります。なお、優越性に当たるかは様々な事情を総合判断して行われるため、これらの事由の一つでも当たってはいけないというわけではありません。

下請法上の「代金減額の禁止」

当該業務委託契約が下請法適用対象取引に当たる場合は、契約書に定める委託業務報酬からの減額は下請法第4条第1項第3号が定める「代金減額の禁止」に違反する場合があります。

下請法 第四条 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号(役務提供委託をした場合にあつては、第一号及び第四号を除く。)に掲げる行為をしてはならない。 (中略) 三 下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請代金の額を減ずること。

新型コロナウイルス感染症の拡大防止や、新型コロナウイルス流行による需要減少は、受託者の「責めに帰すべき理由」によるものといえません。

したがって、これらを理由とした契約書で定める委託業務報酬からの減額は、「代金減額の禁止」に違反する場合がありますので、留意が必要です。

下請法上の「買いたたきの禁止」

緊当該業務委託契約が下請法適用対象取引に当たる場合、緊急事態宣言下での休業損失補填や、安全性確保によって委託者の事業コスト上昇を理由とする、下請代金の単価の額の引き下げを行うことは、下請法が禁止する「買いたたき」にあたるおそれがあります。

下請法 第四条 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、次の各号(役務提供委託をした場合にあつては、第一号及び第四号を除く。)に掲げる行為をしてはならない。 (中略) 五 下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること。

「通常支払われる対価」とは、当該給付と同種又は類似の給付について当該下請事業者の属する取引地域において一般に支払われる対価(以下「通常の対価」という。)をいいます。

ただし、通常の対価を把握することができないか又は困難である給付については、例えば、当該給付が従前の給付と同種又は類似のものである場合には、従前の給付に係る単価で計算された対価を通常の対価として取り扱います。

「買いたたき」に該当するか否かは、対価の決定方法、差別的であるかどうか等の決定内容、通常の対価と当該給付に支払われる対価との乖離状況、当該給付に必要な原材料等の価格動向等を勘案して総合的に判断されます(下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準)。

緊急事態宣言下での休業損失補填や、新型コロナウイルスの予防措置による委託者の事業コスト上昇を理由として、下請代金の単価の額の引き下げを行う場合には慎重な対応が求められます。

契約書で定める下請金の改定前に、改めて両当事者で協議することはもちろん、親事業者は、下請事業者に単価の引き下げを行う理由を説明する必要があります。この際に明細な見積もり書を下請業者に提示するとよいでしょう。

また、契約書に定める下請金から減額するにしても、緊急事態宣言下での休業損失補填費用や、新型コロナウイルスの予防措置による親事業者のコストをすべて下請業者に負担させることと同視される価格設定にしないようにしましょう。

複数の業務を委託している場合に、一律一定比率で単価を引き下げることも「買いたたき」にあたるバイアスが強めるため、個別的に単価を定めるようにしましょう。

報酬減額までいかないまでも、委託者から下請者に対する安全管理を指示した場合や、需要の変化による受託者の生産・調達コストが上昇した場合には、単価を据え置くことも「買いたたき」に当たるおそれがあることにも注意が必要です。

新型コロナウイルスの流行といった異常事態においては、もはや従前の契約で定められた価格が通常の価格とは言えない可能性があるからです。

このような場合には、再度契約を見直し、親事業者と下請事業者との間でより慎重な協議を行い、親事業者から下請事業者への一方的押し付けにならないように配慮することが重要です。

また、協議の際には万が一紛争になった場合に備えて、十分な協議が行われたうえで契約を改定ないし維持したこと証明するため、議事録を残すようにしましょう。

現在、新型コロナウイルスにより物流状況が大きく変化しています。何もせずに契約書をそのままにしておくことも法律に違反してしまう場合もあります。取引先と十分に協議し、相手方の経営状況にも配慮しながら、必要に応じて契約書を改定していく、その際には慎重に経緯を書面で残し、さらには、上記のような気性にもご留意いただければと思います。

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