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民法改正

民法改正・賃貸借契約についてのルールの見直しと明文化

2020.03.20

1. 賃貸借契約についてのルールの見直し

「賃貸借契約」について、内容的にいくつか変更がありましたので、まずは、その見直しについてご説明します。

(1)賃貸借の存続期間について

旧民法によれば、建物の所有を目的としない土地の賃貸借(例えば駐車場など。但し定期賃貸借は除きます)は、上限が20年とされていました。 これについて、新民法は、賃貸借期間の上限を20年から50年に延ばしています。

(2) 賃貸借契約から生じる債務の保証

保証契約に関する民法改正についての記事(2020年1月10日の記事です)でも詳しく説明しましたが、賃貸借から生じる債務の保証についての改正がありました。

賃貸借契約の保証の場合には根保証の場合が多いのですが、「根保証契約」とは、一定の範囲に属する不特定の債務について保証する契約をいいます。

例えば、アパートを賃借するときに、その賃料など賃貸人に対して負担する全ての債務を親や親戚が保証する場合や、会社が取引をするときに、会社が取引先に対して負担する全ての債務を会社の社長や社長の親戚、知人が保証する場合が当たります。

この場合、保証人となる時点では、実際にどれだけの債務が発生するのか、どれだけの金額について保証人として責任を負うのか分からず、保証人が想定外の債務を負う可能性は否定できません。

そこで、今回の改正において、個人(会社などの法人は含まれません)が保証人になる根保証契約については、保証人が支払の責任を負う金額の上限となる「極度額」を定めなければ、保証契約は無効となる、というルールができました。

この極度額は、保証契約をする時点において、「○○円」などと明確に書面等で定めておく必要があります。

(3)一部滅失の場合の賃料減額

旧民法では、賃貸借の対象となる建物の一部が故障、破損した場合に、賃借人は賃貸人に対し、賃料の減額を請求することができるとされていました。つまり、一部使えなくなっていても、借主の方から請求をしない限りは、自動的には賃料が減額されないという規定となっていたのです。

これについて新民法は、使用等できなくなった部分の割合に応じて減額されると規定しました。なお、使用等できなくなった部分の範囲が明確に分けられない場合も多いことが想定されますし、必ずしも自動的に減額する額が出てくるわけではない事例も多いと思われます。

ただ、自動的に減額されることとなったため、オーナー側としては、使用等できなくなった後、タイムリーに対応しなければ、賃料の減額が継続することとなりますので、そういった場合、賃借人から直ちに連絡させるなど、契約の際に留意する必要があるでしょう。

2. 賃貸借契約についてのルールの明文化

賃貸借契約の分野においては、条文上は明確には規定されていないものの、判例や実務において採用されている考え方やルールが確立している争点がありました。

今般の民法改正ではそれらのルールが明文化されました。

(1)敷金についてのルールの明確化

賃貸借契約の際に賃借人から賃貸人に対して差し入れられる金銭には「敷金」、「保証金」、「権利金」、「礼金」といった名目のものがあります。一般に、敷金というと、賃借人の賃料債務等の債務を担保する目的で賃貸人に交付されるもので、賃貸借契約が終了すると、それまでの賃借人の債務額が控除されて返還されるもの、と受け取られていると思いますが、改正前の民法においては、敷金の定義や敷金の返還時期等を定めた規定はありませんでした。そこで、今般の民法改正では、これまでの判例や実務での取り扱いを踏まえて敷金についてのルールを設けています。

まず、改正法は、敷金の定義を「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」と定めています。

賃貸借においては様々な名目の金銭が賃借人から賃貸人に交付されますが、この定義に該当するものであれば、当事者間で「保証金」、「権利金」などと呼んでいたとしても、改正民法にいう「敷金」に当たります。 その上で、判例に従い、賃貸借契約が終了して賃借物が返還された時点で敷金返還債務が生じ(すなわち、賃借物を先に返還する必要があります。)、その額は受領した敷金の額からそれまでに生じた賃借人の金銭債務の額を控除した残額となるというルールを明確にしています。

(2)修繕についてのルールの見直し

借りている建物が雨漏りするなど賃借物の修繕が必要な場合、賃貸人は賃借物の修繕をする義務を負います。 では、賃借人は自分で修繕することはできないのでしょうか。

修繕というと通常は賃借している物件に物理的変更を加えることになるところ、賃借物はあくまで賃貸人の所有物ですから、賃借人が勝手に手を加えることはできないはずです。もっとも、実際に賃借物を使っているのは賃借人ですから、賃貸人に連絡をしても賃貸人が修繕してくれない場合や、緊急の必要がある場合には、賃借人も修繕することができるとするのが合理的です。

そこで、改正後の民法では、①賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないときや、②急迫の事情があるときには、賃借人は賃借物の修繕をすることができるとしています。

(3)原状回復義務についてのルールの明確化

賃貸借契約が終了した場合には、賃借人は賃借物を元の状態に戻して賃貸人に返還しなくてはならない(原状回復義務)と一般に考えられています。実際に、賃貸人は賃借人が賃貸物件を明け渡した後、ハウスクリーニングをして、それにかかった費用を賃借人に請求(実際には返還する敷金から控除)ということがよく行われています。

そして、原状回復義務の範囲について、実務でも判例でも、通常損耗(通常の使用収益によって生じた損耗)、経年変化はその対象に含まれないと扱われています。

もっとも、これらの原状回復義務についてのルールは、改正前の民法では明らかではありませんでした。

そこで、今般の民法改正では、賃借人が、賃貸借契約が終了したときには、賃借物を受け取った後に生じた損傷について原状回復義務を負うこと、通常損耗や経年変化については原状回復義務を負わないことを明文化しています。

(4)賃貸人たる地位の移転について(オーナーチェンジの場合)

賃借物件を所有している賃貸人(オーナー)が、その対象の賃借物件を新しい所有者に売った場合、つまり、オーナーチェンジの場合、その物件についての賃貸借契約がどうなるのかについては、旧民法上は明文の規定がありませんでした。つまり、賃借人としては、元のオーナーに賃料を支払えばいいのか、新しいオーナーに支払うべきか、明確に規定されていなかったのです。

これについて、改正後の民法では、賃貸借の対抗要件(建物の賃貸借の場合には建物の引渡しを受けていること)を備えていた場合には、賃借物件が譲渡されたときは、賃貸人としての地位は原則として不動産の譲受人(新しいオーナー)に移転することが規定されました。また、新しいオーナーが賃借人に対して賃料を請求するためには、賃借物である不動産の所有権移転登記が必要と規定されました。

これにより、新たなオーナーは、登記さえ備えれば賃料を請求できますし、一方、賃借人も、登記を確認して新たなオーナーに支払えば足りるということになります。


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