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2023年(令和5年)4月1日施行の民法の改正について

2023.02.28

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CHECK POINT

2023年(令和5年)4月1日施行の民法の改正について解説いたします。

民法の改正として、2023年(令和5年)4月1日から、以下の4項目が改正されます。
① 相隣関係
② 共有
③ 財産管理制度
④​​ 相続(遺産分割)​
このうち、④については、②、③と関連する改正ですので、今回は、①から③の改正の内容について、重点的に説明します。

1.相隣関係

「相隣関係」とは、「隣接する不動産の所有者相互において、ある場合には境界を越えて、不動産の利用を調整しあう関係」(『法律学小辞典』)と説明されています。
例えば、隣地との境界部分に塀を立てたり修繕したりする場合に、一時的に隣地を利用することを請求することができる、というような関係です。

この「相隣関係」に関連して、以下の3点が見直されました。
すなわち、
・隣地使用権
・ライフライン設備の設置・使用権
・越境した竹木の枝の切取り
の3点です。

(1) 隣地使用権の改正について

現行民法では、隣地使用権について「土地の所有者は、境界又はその付近において障壁または建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができる」(現行民法第209条1項)とされています。

これが、「土地の所有者は、(一定の)目的のために必要な範囲内で、隣地の使用することができる」(新民法第209条1項)と改正されます。

このような改正の背景には、
①隣地所有者が所在不明である場合に、誰にどのように隣地の使用を請求すればよいのか、という問題、
②障壁や建物の築造、修繕以外の目的で隣地を使用することができるかどうかが不明確である、
という問題があったためです。

今回の改正により、原則として、新民法209条1項各号に記載された目的(建物等の工作物の築造、収去、修繕目的、境界の調査・測量目的、越境した枝の切取り等)のために、「隣地を使用することができる」と改正されますので、隣地の使用をすることができる場合が明確化されたとともに、隣地所有者が所在不明であっても、隣地の使用をすることができるようになります。

なお、当然のことではありますが、隣地所有者が存在する場合には、隣地使用について、「日時・場所・方法は、隣地所有者及び隣地使用者のために損害が最も少ないものを選ばなければならない」(新民法209条2項)ことや、隣地使用に際して、事前に隣地所有者に対して通知を行わなければならない(新民法209条3項)ことなど、隣地所有者の権利についての配慮も想定されています。

(2) ライフライン設備の設置・使用権について

ライフライン設備の設置のために他人の所有地を使用しなければならない場合に関しては、現行民法に明文の規定はありませんでした。

そのため、当事者間の話し合いに応じてもらえなかった場合や、隣地所有者が所在不明の場合に、ライフライン設備の設置が困難、という問題がありました。

また、隣地の使用を許諾してもらえた場合であっても、例えば、給水管の設置のために地面を掘り起こさなければならないような場合、補償金名目で、不当な土地使用承諾料を求められるようなケースもありました。

これらの問題を解消するために新民法第213条の2が新設され、「他の土地に設備を設置しなければ電気、ガス又は水道水の供給その他これらに類する継続的給付を受けることができない土地の所有者は、必要な範囲内で、他の土地に設備を設置する権利を有する」ことが明文化されました(新民法第213条の2第1項)。

また、「設備の設置・使用の場所・方法は、他の土地及び他人の設備のために損害が最も少ないもの」としなければならない(新民法213条の2第2項)ことや、他の土地の所有者がいる場合に、事前に通知をしなければならない((新民法213条の2第3項))という配慮は、ここでもなされています。

そして、償金・費用負担に関する規律も整備され、原則としては、「設備設置工事のために一時的に他の土地を使用する際に、当該土地の所有者・使用者に生じた損害」について支払義務を負うこと(新民法231条の2第4項)や、何らかの設備が他の土地の地上に設置されたことに伴い、当該土地の利用が、従前と比べて制限されることに伴う損害についての償金の支払義務(新民法231条の2第5項)が明文化されました。

これにより、他の土地の所有者から承諾料を求められたとしても、承諾料の支払に応じる義務はない、という点も整備されました。

(3) 越境した竹木の枝の切取りについて

現行民法では、「隣地の竹木の音が境界線を越える時は、自らその根を切り取ることができるが、枝が境界線を越える時は、その竹木の所有者に枝を切除させる必要がある(現行民法第233条)、とされています。

そのため、竹木の所有者が枝を切除してくれない場合には、訴訟提起し、判決を得て、判決に基づいて枝の切除を命じる、という手段によるほかないことになり、手続が過重でした。また、竹木が共有されている場合、共有者の一人が越境した枝を切除しようとする場合、法的には「変更行為」として共有者全員の同意が必要、と考えられていることも、竹木の円滑な管理を阻害していました。

これらの問題を解消するために、今回の改正では、越境された土地の所有者は、竹木の所有者に枝を切除させる必要があるという原則を維持しながらも、
①竹木の所有者に越境した枝を切除するよう催告したが、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき
②竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときの場合、③窮迫の事情がある場合には、枝を自ら切り取ることができることとする(新民法第233条3項)、
というように改正されます。

そのため、いざという時には、越境された側が、越境した枝を切除することができる場合が認められることになります。

また、竹木が共有物である場合、「各共有者が(他の共有者の同意を得ることなく)」越境している枝を切り取ることができる(新民法第233条3項)、という改正も盛り込まれました。

2.「共有」に関する改正について

(1) 現行民法における共有に関しては、
・共有物に変更を加えるには、共有者全員の同意を要する(現行民法251条)
・管理に関する事項は、各共有者の持分の過半数で決する(現行民法252条)
・保存行為は、各共有者が単独ですることができる(現行民法252条ただし書き)
というルールがあります。

そして、これらのルールは、相続財産が相続人間で共有状態にある場合にも適用されます。
しかし、例えば、相続財産である土地について戸籍を調査すると、相続人が多数に上ることや相続人の一部が所在不明になっていることが判明することも少なくなく、このような場合に、当該共有物である土地の管理、変更等に関して、共有者全員で同意をしたり、意思決定をしたりすることが困難、という状況も少なくありませんでした。

(2) このような問題を解消するために、新民法では、
・軽微な変更については、共有持分の過半数の同意があればよいこと(新民法第251条1項、第252条1項)
・共有物を使用している共有者がいる場合であっても、持分の過半数で管理に関する事項を決定することができること(新民法第251条1項後段)
・共有物の変更、管理について賛否を明らかにしない共有者がいる場合には、裁判所の決定を得て、その共有者以外の共有者の持分の過半数により、管理に関する事項を決定することができること(第252条2項2号)
・所在等不明共有者(調査を尽くしても氏名や所在等が不明な共有者)がいる場合には、裁判所の決定を得て、所在等不明共有者以外の共有者全員により、共有物の変更が可能になること(新民法第251条2項)、所在等不明共有者以外の共有者の持分の過半数により、管理に関する決定が可能になること(新民法第251条2項1号)
等といった、共有者の同意に関するルールが改正されます。

また、裁判による共有物分割の方法として、賠償分割(ある共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部または一部を取得させる方法)が明文化されたり(新民法第258条2項)、裁判所の決定を得て、所在等不明共有者の不動産の持分を取得することができること(新民法第262条の2)なども改正されます。

このような改正を通じて、共有物の変更、管理のために必要な手続が容易になることや、所在等不明共有者がいる場合でも共有物の処分(売却等)が容易になることが期待できます。

3.「財産管理制度」に関する改正について

(1) 現行民法では、土地・建物の所有者が、調査を尽くしても不明な場合、当該土地・建物の管理処分に関しては「財産管理制度」を活用する必要がありました。

もっとも、現行の「財産管理制度」は、財産管理制度が利用できる前提にあること(不在者の財産管理、相続財産の管理、または法人の解散に伴う清算の場合であること)が必要でした。
また、管理制度を利用できる前提にあったとしても、管理対象が対象者の財産全般を管理する仕組みとなっているため、対象者の財産全般の調査等に時間を要したり、土地・建物が共有であった場合に、複数の共有者が所在不明であった場合には、不明者ごとに管理人の選任が必要であったり、という煩雑さがありました。

さらに、所有者を全く特定できない土地・建物については、管理の必要性は高いにもかかわらず、現行の財産管理制度を利用することができない、というデメリットもありました。

(2) これらの問題を解消するために、今回、土地・建物のみに特化して管理を行う「所有者不明土地管理制度」及び「所有者不明建物管理制度」が創設されました(新民法第264条の2~第264条の8)。

この所有者不在土地または所有者不在建物の管理制度の創設によって、当該土地または建物の管理処分権は、管理人に専属することになり、管理人は、裁判所の許可を得て、当該土地、建物の処分(売却や建物の取り壊し等)を行うこともできるようになります。

(3) さらに、所有者は判明しているけれども、適切な管理が行われず、荒廃、老朽化等によって近隣に危険を生じさせている「管理不全状態」にある土地・建物についても、管理人による管理を可能とする「管理不全土地・建物管理制度」が創設されました(新民法第264条の9~新民法第264条の14)。

この制度によっても、管理人は、管理不全状態にある土地、建物の保存、利用、改良行為を行うほか、所有者の同意を得て、当該不動産の処分(売却や建物の取り壊し等)を行うことが可能となります。

(4) このように、所有者不明または管理不全状態にある土地、建物の管理が可能となる点で、従前管理等ができていなかった不動産について、今後の健全な利用が促進されていくことが期待できます。

3.「財産管理制度」に関する改正について

4.まとめ

今回の民法改正は、主に「物権」の改正であるため、企業間の取引等には直接的には関連の薄い項目であったかもしれません。
もっとも、土地・建物の利用、管理等に関わる事項、という、皆様の私生活上では生じうる可能性のある事項に関する改正、という側面から、今回の法改正について、イメージを持っていただけましたら、とも感じます。

より詳細には、法務省から概要も出ておりますので、こちらもご参照ください。


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