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意匠法における新規性喪失要件の緩和について
2024.03.12
2024年1月より、意匠法における新規性喪失要件についての改正が、施行されます(公布日は、2023年6月14日)。当該改正により、新規性喪失要件が緩和されることになり、出願人の負担が軽減されることになります。
今回は、意匠法における新規性喪失要件の緩和について、意匠制度や意匠法の概要とともにお伝えできればと思います。
意匠制度の概要
(1)意匠制度の目的
意匠法第1条には、「この法律は、意匠の保護及び利用を図ることにより、意匠の創作を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする」とあります。そして、意匠とは、意匠法第2条に規定されており、「物品(物品の部分を含む。)の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下「形状等」という。)、建築物(建築物の部分を含む。)の形状等又は画像(機器の操作の用に供されるもの又は機器がその機能を発揮した結果として表示されるものに限り、画像の部分を含む。)であって視覚を通じて美感を起こさせるもの」をいいます。
意匠の創作とは、物品、建築物及び画像(以下、「物品等」といいます)の、より美しい形態、より使い勝手のよい形態を新たに作り出す行為のことをいいます。しかし、物品等の形態は、誰にでも認識することができてしまうため、容易に模倣することができるため、物品等の形態が権利として保護されなければ、健全な産業の発展に支障を来すこととなります。
そこで、意匠制度は、新しく創作した意匠を創作者の財産として保護する一方、その利用についても定めて、これにより意匠の創作を奨励し、産業の発達に寄与しようというものです。
(2)意匠登録の主な要件
意匠法による保護を受けるためには、保護を受けようとする意匠について、特許庁に対して意匠登録出願をし、意匠登録を受ける必要があります。そして、意匠登録を受けるためには、所定の様式に基づいた書類を特許庁に提出(出願)し、必要な要件を満たしているかの審査を受ける必要があります。
意匠登録を受けるための主な要件は、以下の通りです。
ア 工業上利用できる意匠であるか(意匠法3条1項柱書)
意匠法の保護を受けるためには、工業上利用できること、すなわち工業的に量産することができることが要件となります。
イ 今までにない新しい意匠であるか(新規性・意匠法3条1項)
出願前にそれと同一又は類似の意匠が存在しないこと、すなわち、新規性を備えている必要があります。ただし、新規性が認められない場合でも、一定の要件を満たす場合、救済が受けられる可能性があります(意匠法4条)。今回の改正は、この部分に関するものです(詳細は、後述します)。
ウ 容易に創作をすることができたものでないか(創作非容易性・意匠法3条2項)
新規性を充足する意匠であっても、当業者であれば容易に創作できる意匠は、意匠登録を受けることができません。
エ 他人に先に出願されていないか(先願主義・意匠法9条)
他人に同一又は類似の意匠を先に出願されてしまった場合は、意匠登録を受けることができません。先に出願されたか否かは、出願日に基づいて判断されます。
オ 不登録事由がないか(意匠法5条)
以下に挙げるものは、公益的な見地から意匠登録を受けることができません。
(ア)公序良俗を害するおそれがある意匠
(イ)他人の業務に係る物品、建築又は画像と混同を生ずるおそれがある意匠
(ウ)物品の機能を確保するために不可欠な形状若しくは建築物の用途にとって不可欠な形状のみからなる意匠又は画像の用途にとって不可欠な表示のみからなる意匠
(3)意匠登録の効果
意匠権を得た人は、登録された意匠と同一及びこれに類似する意匠にまで効力を有し、登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有することができます。
なお、意匠権の存続期間は、意匠登録出願の日から最長25年(平成19年4月1日から令和2年3月31日までに出願されたものは、設定登録の日から最長20年、平成19年3月31日以前に出願されたものは、設定登録の日から最長15年)です。
新規性喪失要件の緩和ついて
(1)背景事情
先に記載したとおり、意匠登録を受けるためには、新規性が認められることが必要です(意匠法3条1項)。そのため、創作時には新規性が認められるような意匠であったとしても、意匠登録出願以前に公開された意匠は、新規性を喪失しているとして、原則として意匠登録を受けることはできません。
もっとも、自らの意匠を公開した後にその意匠について意匠登録出願をした場合であっても、それが理由で絶対に意匠登録を受けることができないとすることは、創作者にとって酷な場合もあります。また、このことは、産業の発達への寄与という意匠法の趣旨にもそぐわないとも考えられています。
そのため、意匠法では、特定の条件の下で意匠を公開した後に意匠登録出願した場合には、先の公開によってその意匠の新規性が喪失しないものとして取り扱う規定が定められています(意匠法4条)。
そして、今回の改正が関連する、意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して新規性が喪失された場合の例外が認められるための現行の要件は、以下の通りです。
① 新規性を喪失した日から1年以内に意匠登録出願がされていること
② 意匠登録出願と同時に意匠法4条2項の適用を受けようとする旨を記載した書面が提出されていること
③ 出願日から30日以内に新規性を喪失した意匠が意匠法4条2項の適用を受けることができる意匠であることを証明する書面(例外適用証明書)が提出されていること
現行の制度では、出願人は、新規性喪失の例外が認められるためには、③意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して公開された「全ての」意匠を網羅した例外適用書面を、わずか30日以内に提出しなければなりません。これが、出願人にとっては、大きな負担となっています。
(2)2024年1月1日以降の取扱い
今回の改正により意匠法4条3項が改正され、2024年1月1日以後の出願については、意匠登録を受ける権利を有する者(権利の承継人も含む)の行為に起因して公開された意匠について、「最先の公開の日の」、「いずれかの公開行為」について証明することで、その日以後に公開した同一又は類似の意匠についても新規性喪失の例外規定の適用が受けられるようになります。
つまり、公開された全ての意匠を網羅する必要はなく、「最初に公開された意匠について」、(また、同じ日に2度以上の公開があった場合でも、いずれか1つの公開に関しての)証明書を提出すれば足りる、ということになるのです。
まとめ
今回の改正により、出願人の負担が大きく軽減されることになります。
また、最先の公開意匠が証明書に掲載されるため、第三者の予見可能性にも配慮がなされているといえます。今回の改正について、さらに詳しくお知りになりたい方は、特許庁のHPをご参照いただければと思います。
※本記事は、2023年12月時点の情報をもとに記載いたしました。