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英文契約書

国際取引の場合の「管轄」はどこにするのか?

2020.05.22

英文契約書の読み方 ~その5~ 管轄について(前編)

今回も、英文契約書特有の条項についてです。 第5回目は、「管轄」についてです。

「管轄」とは?

  契約書でいうところの「管轄」とは、契約書の当事者の間などで、何らかの紛争が起きた場合にどこで最終的に解決するかをいいます。つまり、紛争について、どの機関が管轄権を持つかということです。   まず、前提として国内の取引について書きますと、売買などの契約の場合には、どこかの裁判所(通常は、いずれかの当事者の最寄の裁判所)が管轄を持つと定められる例が多く、具体的には、「本契約に関連して生じた紛争については、東京地方裁判所又は東京簡易裁判所が専属的管轄権を有する。」といったように定められます。   国内の取引であっても、一定の専門的な分野については、裁判官よりも、そういった分野の専門家に判断してもらった方が妥当な解決が導き出されるということで、例えば建築の場合など、建築紛争審査会による仲裁による、というように定められる場合もあります。その場合には、争いが生じた場合には、裁判所にそれを持ち込んで判断してもらうのではなく、建築紛争審査会が判断することとなります。   なお、『仲裁と裁判の違い』については、過去のブログに詳細に書いていますので、その記事もご参照ください。   つまり、国内の取引の場合には、 特に専門性が高い等の事情がない通常の取引であれば、まずは、自社の最寄りの裁判所で提案し、適宜交渉して場所を決め、 専門性が高い取引であれば、仲裁によるとする場合もあるということになります。  

国際取引の場合の「管轄」はどこにするのか?

次に、この記事の本題の海外との取引の場合ですが、特に専門性が高い取引の場合には、仲裁による方が良い場合もある、というのは、海外でも同様です。 一方、海外では特有の留意点もあり、そして、国ごとの検討も必要となります。  

【米国、英国、シンガポール、ドイツの場合】

具体的にはまず、米国や英国、シンガポール、ドイツといった国の企業が相手方の場合について記載します。これらの国の場合、まずは、日本の裁判所というのも日本企業にとってはお勧めの選択肢となります。これらの国の企業が相手方の場合、日本の裁判所で判決を得た場合、その判決を相手方の所在国で執行することができるからです。   なお、「判決の執行」とは、判決に記載された債務(例えば、B社はA社に対し100万ドルを支払え、といった内容)について、相手方が支払わない場合に、銀行口座を差し押さえたり、不動産を差し押さえて競売にかけたりして強制的に回収することをいいます。具体的文言としては、東京地裁であれば、「この契約から又はこの契約に関連して生ずることがあるすべての紛争、論争又は意見の相違は、第一審について、東京地方裁判所の専属的管轄権に服する。(All disputes, controversies or differences arising out of or in connection with this Agreement shall be filed to the Tokyo District Court as the court of first instance with exclusive jurisdiction.)」というように規定されます。

・相手方から日本での裁判を拒絶された場合は?

その場合は、相手方の国の裁判所や仲裁(その場合の場所は、日本、相手方の国、第三国があり得ます。)となりますが、相手方の国の裁判はお勧めではない場合も多いです。   というのも、これらの国は非常に弁護士費用が高額となりますし、ディスカバリーという証拠開示手続き(手持ちの関連資料をお互いに開示しあう制度で、日本では導入されていない手続きとなります。)を経る場合もあり、これが、非常に費用と手間がかかるためです。   そのため、管轄についての交渉では、日本の裁判所がだめなら日本での仲裁、日本での仲裁がだめであれば、第三国での仲裁(例えば、日本とドイツの企業との取引について、シンガポールでの仲裁など。)、それがだめなら、相手方の国での仲裁、というように交渉を進める場合もあります。  

・仲裁の場合の具体的文言

例えば、「この契約から又はこの契約に関連して生ずることがあるすべての紛争、論争又は意見の相違は、一般社団法人日本商事仲裁協会の商事仲裁規則に従って仲裁により最終的に解決されるものとする。仲裁地は東京とする。仲裁の言語は英語とする。(All disputes, controversies or differences arising out of or in connection with this Agreement shall be finally settled by arbitration in accordance with the Commercial Arbitration Rules of The Japan Commercial Arbitration Association. The place of the arbitration shall be Tokyo. The language of the arbitration shall be English.)」(日本商事仲裁協会(JCAA)のHPの仲裁文言参照。https://www.jcaa.or.jp/arbitration/clause.html)というように規定されます。  

・シンガポールの仲裁機関:SIAC、ICC

なお、シンガポールのSIAC(Singapore International Arbitration Centre)やICC(International Chamber of Commerce)も、特に海外が仲裁地の場合には日本企業が合意することも多い仲裁機関ですが、これらの機関で仲裁する旨合意する場合の仲裁合意の文言(条文の例)も、それぞれの仲裁機関のHPに掲載されていますので、そういった文言をそのまま用いるのがお勧めです。 少し長くなりましたので、上記の国以外の、特に【アジアなどの発展途上国】の企業との取引における管轄については、次回に記載させていただきます。

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