COLUMN / SEMINAR
秘密保持契約(NDA)を徹底解説3 ~秘密保持契約における期間と損害賠償~
2022.12.15
秘密保持契約における期間の規定
秘密保持契約(NDA)において、契約期間の規定は、守秘義務を負う期間と直結しているため、非常に重要で交渉対象となることも多いように思います。
これについては、開示される情報の性質によるため、一般的に何年ということはなく、開示側が、情報が陳腐化するであろうと考える期間を見積もって入れるということになります。
なお、秘密保持契約の契約期間自体は1年等としつつ、秘密保持義務については、契約終了後も
5年間存続すると定めるなど、契約期間と秘密保持契約期間を別途定める例もありますので、契約終了後の義務の存続について定める規定(存続規定)にも留意が必要です。
更に、契約期間自体は短くしつつも、一方当事者から通知がない場合には、自動的に更新すると定める例もあります。
別途通知しない限り、無期限に秘密保持義務を負い続けることとはなりますので、情報の受領側としては、自動更新条項にも留意が必要です。
秘密保持契約における損害賠償規定の意味
秘密保持契約(NDA)においても、他の契約と同様、契約上の義務について不履行があった場合、この不履行により損害が発生すれば、損害賠償の問題が生じます。具体的には、秘密保持義務に違反し、情報が漏洩してしまった場合です。
秘密保持契約(NDA)に損害賠償に関する規定がなくても、民法上、契約上の義務について不履行があれば、債務不履行として損害賠償請求ができる旨定められていますので(民法415条)、秘密保持契約(NDA)の損害賠償規定は、「損害賠償ができることを確認する」という確認規定の意味と、「損害賠償できるとして、どの範囲で損害を請求することができるか」という損害賠償の範囲を決めるという意味があります。
損害賠償の範囲
損害賠償の範囲は、秘密保持契約(NDA)に損害賠償の規定がないか、あったとしても、損害賠償の範囲について明記していない場合には、民法416条に定められる範囲での損賠賠償が認められることとなります。
なお、民法416条は、損害賠償の範囲について、(1)債務不履行(この場面では秘密の漏えい事故)によって通常生じるべき損害、(2)特別な事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見していたか、又は予見することができた場合には、その特別事情による損害、を賠償するとしています。
では、この民法で定められる損害賠償の範囲を広くするにはどのような方法があるでしょうか。特に情報を出す側の当事者は、万が一の情報漏えい事故に備え、損害賠償の範囲を広く設定した方が有利です。
まずは、秘密保持契約(NDA)の債務不履行の規定の文言を、「債務不履行により生じた損害」との表現ではなく、「債務不履行に起因又は関連して生じた損害」というように、債務不履行との結びつき部分について緩やかな場合でも該当しうるような表現にすることが考えられます。
更に、対象となる損害を広げるために、「債務不履行により生じた損害」を「債務不履行に起因又は関連して生じた全ての損害(弁護士費用や逸失利益等も含むがこれに限定されない。)」というように修正することも考えられます。
逆に、損害賠償の範囲を狭くするにはどのような方法があるでしょうか。情報を受け取る側の当事者は、万が一の情報漏洩の場合に損害賠償のリスクを減らすべく、賠償範囲を狭く設定した方が有利です。
この場合は上記と逆で、債務不履行との結びつきについて、「債務不履行から直接生じた損害」とした方が良いです。
また、どんなに気を付けていても、従業員がPCを紛失したり、ハッキングされたりするなどして漏洩が起こる可能性はあり、その際に、全く過失がなかったと立証するのは困難です。そのため、故意又は重過失の場合に限定することが非常に有効な限定方法となります。
つまり、「故意又は重大な過失による債務不履行から直接生じた損害」との文言を入れるという方法です。
更に、対象となる損害も限定した方が有利ですので、「故意又は重大な過失による債務不履行から直接生じた損害(弁護士費用や逸失利益は含まれない)」と修正することも考えられます。
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損害賠償の上限
情報の受領側としては、例えば情報が流出し、相手方当事者の信用が棄損され、大幅に売り上げが落ちた場合など、予想もしていなかったような莫大な損害賠償を請求されることもあり得ないとは言えませんので、秘密保持契約(NDA)において、「損害賠償額の上限を定めておくことも、非常に有効な自衛手段とはなります。
但し、情報の出し手側からすれば、どんなに莫大な損害を被っても請求できる金額が限定されることとなりますので、ハードルの高い交渉となる場合もあります。
なお、損害賠償の上限額の定めについては、故意に情報を漏洩した場合や、重大な過失により漏洩させた場合には適用されないとも解されています。
違約金(損害賠償の予定)の定め
なお、日本での秘密保持契約(NDA)ではそれほど一般的ではないとは思いますが、違約金が定められているものもあります。
秘密保持契約(NDA)違反、つまり漏えい事故があった場合には、●万円を支払うというように、別途漏えいによる損害を立証しなくても、定められている金額を支払わなければならないとする規定です。
具体的には、「受領当事者が、本契約に違反して、秘密情報を第三者に開示または漏洩し、開示当事者に損害を与えた場合には、受領当事者は、開示当事者に対し、賠償金として●●円を支払う。」といった文言を用います。
このような規定が定められる趣旨は、情報の出し手側として、万が一情報漏えい事故があったとして、それによりその企業が非常に批判されるなどし、売上が大幅に落ちたとしても、これが漏えい事故に起因する売り上げの下落なのか、その他の要因によるものなのか、詳細に特定して立証することは容易ではありません。
そのため、立証できないがために賠償請求できないという事態を避けるべく、事前に、概ねこれくらいの損害が生じるのではないかと考えられる額を、違約金(損害賠償の予定)として合意しておくということです。
この違約金額が、漏えい事故の場合の損害をカバーできる額であれば、情報の出し手としては非常に安全です。
ただ、上記文言のように、賠償金として一定額を支払う旨を合意したのみですと、それ以上に損害が生じて、これを立証できる場合でも、損害賠償として請求できる額が合意した金額に限られることになります。
そのため、上記文言に続けて、「但し、別途実際に生じた損害を立証した場合には、上記金額を超えて実損額を請求できる。」等と定めておけば、この点もクリアできることにはなります。
なお、情報の受領側からすると、漏えい事故が生じた場合、直ちに一定金額を支払わなければならないということとなるため、極めて不利な規定です。
そのため、秘密保持契約(NDA)において、上記の違約金の定めは必ずしも一般的ではなく、企業や事業の根幹にかかわるような重要情報が開示される場合など、特殊な事情がある場合に締結される秘密保持契約(NDA)において規定されることがほとんどではないかと思います。
差止めの定め
差止めというのは、情報が開示又は漏洩されそうな事態が起こっているとか、実際に開示等され続けていて、直ちにそういった事態を止めなければ情報の開示側の企業が大きな損害を被るような差し迫った事態が発生している場合に、裁判所を通じて、一定の行為を禁止することを命じるような裁判所の判断を得ることをいいます。
日本法の下では、特にこの規定がなかったとしても、後に金銭での損害賠償をするのでは賄えないような差し迫った事態であることを示して、仮処分という迅速な手続きで、相手方の漏えい行為を止めるような決定をもらっていくことは可能ですので、確認的な規定となります。