COLUMN / SEMINAR
民法改正
民法改正・解除の要件の見直しがされました(債務不履行が軽微な場合)
2020.02.21
前回からの続きで、民法改正での「解除要件の見直し」についてです。
債務不履行が軽微な場合には解除することができないことが明文化
解除というのは、債務不履行がある場合にすることができるものです。 ただ、債務不履行がある場合には必ず解除することができるのでしょうか。どのような債務不履行であっても解除することができる、とすると不都合はないでしょうか。
例えば、①購入したパソコン本体に、目立たない程度の傷が付いていた場合や、②売主が「長時間連続して使用すると本体に熱がこもり、破損するおそれがある」という使用上の注意をすることを忘れていた場合。
①については、通常、パソコン売買契約の場合、売主としては傷の付いてないパソコンを引き渡す義務があるので、目立たない程度の傷が付いていた場合であっても、売主には債務不履行があるとなり得ます。②についても、売主としては、目的物を引き渡すのみならず、その目的物の使用上の注意を伝える義務(付随的な義務)があるので、そのような注意を怠たれば売主の債務不履行となり得ます。
もっとも、①については、目立たない程度の傷であれば、パソコンを使用する上で問題はなく、債務不履行といってもその程度は低い・軽いのであって、それで契約解除というのはやりすぎという感じがします。②についても、売主の中心的な義務であるパソコンの引渡しをきちんとしていたのであれば、付随的義務を理由に契約解除をして、その結果、お互いパソコンと代金を返さなければならないというのはどうなのか、と感じてしまいます。
改正前民法では、債務不履行を原因とする契約の解除をするための債務不履行の程度について、条文上は特に限定をしていませんでしたが、判例は付随的な債務の不履行や、不履行の程度が必ずしも重要ではない場合については、解除することができないとしていました。
解除というのは、債務者の債務不履行によって契約の目的を達成することができずに困っている債権者を契約の拘束力から解放するものだから、不履行の程度が軽い場合には契約関係を消滅させることは相当ではないという考え方ですね。
そこで、今回の改正では、この判例の考え方を前提に、解除が制限される場合を明文化しています。具体的には、その債務不履行が「契約及び取引通念に照らして軽微であるとき」には解除することができないとの規定を設けています。
債務不履行が軽微であるかどうかは、問題となっているその契約や取引通念に照らして判断されます。したがって、ぱっと見て軽い・低い程度の不履行と思われそうな場合であっても、その契約においては重要な位置づけとなる部分についての不履行であれば、「契約及び取引通念に照らして軽微」ではない、と判断されることもあり得ます。
催告無しに解除することができる場合を明文化
解除をするには、債務者に債務不履行があるだけではなく、通常は「催告」が必要です。催告というのは、債務者に対して「○○日までに履行してください」などとお知らせすることです。
納期を既に過ぎても納品されず債務者が債務不履行になっているにもかかわらず、債権者はすぐには解除することができず、「催告」を踏まなくてはなりません。これは、既に債務不履行になっているとはいえ、債務者に履行のチャンスを与えるためです。
もっとも、改正前民法において、催告せずに解除することができる場合が列挙されていて、①ある時期までに履行がなければ契約の目的が達せられない場合において、履行がされずにその時期が経過したとき、②債務の履行が不能であるときには、催告をせずに解除することができると規定されていました。このような場合には、催告によって改めて債務者に履行の機会を与えても、債務者が履行することができないことが明らかであって(②の場合)、また、債務者が催告を踏まえて履行をしてももはや契約をした意味がないから(①の場合)です。
①というのは、12月25日に受け取りの予約をしたクリスマスケーキが当日に受け取れない、とか、注文したウェディングドレスが結婚式当日になっても届かない、といった場合です。いずれも、その当日に受け取れないなら、後日に受け取っても意味がないですね。
そうすると、この①や②の場合のみならず、債務者に履行の機会を与えても意味がない場合には、催告をせずに解除することができてもよいのではないでしょうか。
そこで、今般の民法改正においては、この①、②のほか、③債務者が債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に示したとき、④債務の一部が不能又は債務者が債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき、⑤ほか、債務者が債務の履行をせず、債権者が催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかなときにも、催告をせずに契約の解除をすることができるとしています。
改正後の催告解除・無催告解除について簡単にまとめると以下の通りです。
催告解除
- 債務を履行しない場合(軽微な場合を除く。
無催告解除
- 履行不能の場合(例:対象物が焼け落ちて同じものを調達不可能な場合など)
- 履行拒絶の場合(債務者が、「目的物を引き渡すつもりはない」と明言するなど、履行を拒絶している場合など)
- 一部履行不能・履行拒絶で、残存部分では契約目的の達成が不可能な場合
- 定期行為(一定の期日までに履行しなければ契約の目的が達成できない場合、例えば、クリスマスケーキの売買など。)
- その他催告したとしても履行の見込みがない場合
まとめ
以上、解除についての改正をまとめると、現行法では、債務者に帰責性がある場合には解除と損害賠償が可能で、一方帰責性がない場合は危険負担の問題として処理されていました。これについて、解除と損害賠償の取り扱いを変え、損害賠償は債務者の帰責性が必要ですが、解除は不要として、帰責性がなくても解除できることとし、さらに、軽微な債務不履行を対象外として明文化しました。また、催告解除及び無催告解除の要件が整備されたということになります。