法務サポートコラム

秘密保持契約(NDA)を徹底解説 ~秘密情報の定義とリスク~

2020年06月19日配信

今回から、「秘密保持契約(NDA)」について、シリーズで書いてみたいと思います。

 

 

 

秘密保持契約(NDA)とはなにか。

 

秘密保持契約とは、企業秘密を保護するために結ばれる契約であり、NDA(Non-Disclosure Agreementの略語)、守秘義務契約と呼ばれることもあります。

 

部品の製造を外注したり、コンサル業務を委任したり、下請業者に発注したりなど、あらゆる会社間での取引に先立ち、自社の情報を開示する場合があります。その後取引締結まで至れば、当該取引に関する契約の中で秘密保持条項が定められることも多いですが、取引に至らない場合もありますし、NDAを締結せずに情報を開示すると、競合に当該情報を開示されるなど、困った事態に陥るリスクもあります。

 

また、交渉の存在自体を外部に漏らされることにより、市場における優位性が損なわれることも考えられます。そのため、NDAは交渉に先立ち締結されることが多いです。

 

 

 

NDAにおける「秘密情報」の定義の重要性

 

NDAを結ぶことにより、情報の秘密保持を義務付け、目的外使用を禁止することなどを定めていきます。もっとも、そもそも開示した情報が「秘密情報」に当たらなければ、当該情報の秘密保持を義務付け、目的外使用を禁止することはできません。
 
そのため、秘密情報の定義をどのように定めるかは、開示側にとって、開示した情報の漏洩や目的外使用を防止することができるかどうかに直接関わる重要な事項です。一方、受領側にとっても、どの範囲で義務を負うかに係るため、逆の意味で重要な事項となります。

 

不用意に秘密情報の定義を定める文言を決めてしまうと、開示側として、自社の機密情報が守られないという思いがけない事態に直面するおそれがあり、一方受領側としては、広い範囲で義務を負うことになることから、NDAを締結する際には、秘密情報の定義条項については慎重に範囲を確認する必要があります。

 

 

 

開示当事者に有利な規定

 

開示当事者としては、開示する情報がすべて秘密情報にあたることが望ましいです。その方法として例えば、「開示した一切の情報」とし、「本契約存在およびその過程等も含む」といった文言を用いることが考えられます。

 

もっとも、開示する情報がすべて秘密情報にあたると規定したとしても、長期にわたって情報がやりとりされたり、開示する情報の秘密性がマチマチである場合には、秘密情報の対象を特定することができないとして有効性が争われたり、秘密情報の範囲が限定的に解釈されてしまったりといったおそれもないわけではありません。

 

このようなリスクを回避するために、開示する情報の中で、守秘を守ってもらいたい情報が限定されている場合には、開示側であっても、敢えて限定する方が良いという場合もあり得ます。秘密情報を限定する文言の定め方は、下記以降の記載をご参考下さい。

 

 

 

 

特定することにより「秘密情報」の範囲を限定する方法

 

受領当事者としては、開示情報のうち「秘密情報」にあたる情報を特定し、「秘密情報」にあたる範囲を限定する方が、守秘義務を負う範囲が狭くなり有利です。また、「秘密情報」にあたる情報を特定することは、秘密情報にあたる情報とそれ以外を明確に区別することにより、思いがけず秘密情報を目的外利用してしまうといったリスクを減らす意味もあります。

 

「秘密情報」にあたる情報を具体的に特定する方法としては、紙媒体については秘密である旨を明示する電磁的記録媒体についてはパスワードを付与する口頭により提供した情報については追って、書面などにより秘密とすべき内容が特定するといった方法が考えられます。

これらの方法は開示当事者にとっても一見簡単にように見えますが、このような方法に従って「秘密情報」にあたる情報を特定することが現実的に不可能であったり、本来秘密保持の対象として取り扱うべき情報が「秘密情報」から漏れてしまったりといったリスクがあるため注意が必要です。

 

 紙媒体における秘密である旨の表示は、「厳秘」、「秘密」、「㊙」を押印する方法が通常考えられます。しかし、秘密であることを付し忘れるといったリスクもあります。また、開示する文書が大量であるときは、それらすべてに㊙を記すことは大きな手間となり、容易でない場合もあります。このように秘密である旨を明示することが現実的でない場合は、特定方法として適切でないため避けるべきでしょう。

 

 電磁的記録媒体にパスワードを付与する場合でも、人による作業である以上、パスワードを付し忘れるといったリスクは拭い切れません。

 

このようなヒューマンエラーを防止するためにメールの添付ファイルに自動的にパスワードを付す設定にすることが考えられます。このような場合、送信した資料はすべて秘密情報になるため、多くの情報のやりとりを電子的記録媒体で行う場合は、「秘密情報」の範囲を限定したことの意味が薄れます。もっとも、どの開示情報が「秘密情報」に当たるかを識別することにより思いがけないNDA違反を防ぐという点では変わらず意味を持ち続けます。

 

また、メール本文などパスワードをつけることができない媒体については、秘密情報に含まれないこととなります。したがって、「秘密情報」としたい開示情報をメールに書いてしまうことで秘密保持の対象から外れてしまうといったリスクが考えられます。

 

 口頭により提供した情報を書面などによりその内容を特定するといった方法について、議事録が残るような打ち合わせの場で口頭により情報を開示した場合は、開示情報を書面によって「秘密情報」と特定することは容易でしょう。

 

しかし、何気ないやりとりの中で秘密情報にすべき情報を開示してしまったことを開示当事者が認識できずに、書面で秘密情報として特定せずに終わるといったリスクが考えられます。

 

 

このように、開示情報のうち「秘密情報」にあたる情報を特定し秘密保持の範囲を限定した場合、本来は秘密情報とすべきであった情報が、NDAが対象とする「秘密情報」の定義から外れるリスクがあります。

 

開示側当事者の場合で、「秘密情報」の対象を特定する場合は、現実的に可能な特定方法か、特定漏れが容易に起こる特定方法ではないか慎重に検討する必要があります。

 

 

 

 

例示することにより秘密情報の範囲を限定する方法

 

秘密情報にあたる情報を例示する方法によって、秘密情報の範囲を絞ることもできます。例えば、「データ、メール、ノウハウ、紙媒体・・・」といったように細かく対象物を列挙することが考えられます。開示当事者としては、秘密保持の対象としたい情報が列挙事由に含まれるかを慎重に検討する必要があります。

 

また、開示当事者としては、上記のような例示の最後に「その他一切の情報」というような包括的な文言を定めることで、秘密情報の範囲をより広く定めることができます。もっとも、「その他一切の情報」は例示列挙に準じて解釈されるため、この場合でも、例示列挙の検討は慎重に行うに越したことはありません。

 

開示側の場合には、NDAのチェックの際に、「秘密情報」の定義が例示列挙によって限定されていないか漏れなく確認するようにしましょう。

 

 

 

不正競争防止法との関係

 

「秘密情報」の定義を、「開示した一切の情報のうち不正競争防止法2条6項に定める営業秘密に該当する情報」と定めることで、「秘密情報」の範囲を限定する方法があります。不正競争防止法が定める「営業秘密」は、有用性、非公知性、秘密管理性の3つを要件とします。これらの要件はかなり限定的なものであるため、「秘密情報」の範囲はかなり限定され、受領当事者に有利な契約内容となります。

 

また、不正競争防止法は、「秘密として管理されているもの」にあたらないことを要件に、限定提供データとして保護しています(不正競争防止法2条7項)。NDAによって「秘密情報」として保護された情報は、一見「秘密として管理されているもの」にあたり、限定情報データとして保護されないかのように見えます。

 

しかし、不正競争防止法2条7項が「秘密として管理されているもの」を除外する趣旨は、営業秘密との限定情報データの重複を避けることにあるため、営業秘密に該当しないNDA上の「秘密情報」は限定情報データにあたると解されるでしょう。

 

 

 

秘密情報の範囲を目的によって限定する方法

 

NDAの対象となる情報を「本目的のために利用される情報」と限定する方法があります。このような限定がなければ、NDAの締結に関与した担当者以外の社員が、別の案件で当該情報のやりとりをした場合に、その情報にもNDAの効力が及んでしまうとも解釈も可能となります。

NDAのチェックの際には、「秘密情報」の定義に、「本目的のために」といった文言が入っているかも確認しましょう。

 

 

 

NDA締結前に開示された情報

 

NDA締結前に情報の開示があった場合、そのままでは秘密保持契約の対象に含まれず、開示情報を保護することができません。NDA締結前に開示された情報を保護するためには、①秘密情報の定義に「本契約の締結の前後を問わない」といった文言を入れる②NDAの効力を契約締結前に遡って生じさせる③情報を開示した時点ではNDAに調印はできていなかったものの、既にNDAの合意はなされていたとして、情報の開示時点までNDAの締結日を遡らせる(「バックデート」)といった方法が考えられます。

 

①と②は特に目立ったデメリットもないため採用すべき方法です。③の方法は、情報の開示時点で本当に合意があったのか争いになりやすいです。また、情報の開示時点と契約書の締結時点が離れている場合や、後に契約内容に修正があった場合は、「情報を開示した時点では、既にNDAの合意がなされていた」とは言えなくなります。このように、③の方法はリスクが高いため、①か②の方法が安全と思われます。

 

NDAのチェックの際には、まず、NDA締結前に開示された情報も秘密保持契約の対象となっているか、対象となっているとして、③バックデート方式が採用されていないか気を付けて確認しましょう。

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