COLUMN / SEMINAR
その他
ステルスマーケティング規制について
2024.03.12
企業のマーケティング活動において近年問題となっているのが、「ステルスマーケティング」(以下、「ステマ」とよびます)です。ステマはこれまで問題視されていながらも、法的には規制されていませんでした。しかし、2023年10月1日からステマ規制が導入されることになりました。
そこで、今回はステマについて取り上げたいと思います。
ステマとは
ステマとは、「ステルスマーケティングの規制に関する意見書」(日本弁護士連合会・2017年)によると、「消費者に宣伝と気づかれないようにされる宣伝行為」と定義されています。ステマは、同意見書によると、なりすまし型(事業者が自ら表示しているにもかかわらず、第三者が表示しているかのように誤認させるもの)と、利益提供秘匿型(事業者が第三者に金銭の支払その他の経済的利益を提供して表示させているにもかかわらず、その事実を表示しないもの)の2つに分類されます。
ステマは、インターネット広告やSNSの急速な発展に伴い、社会問題としてたびたびメディアに取り上げられるようになっています。
景品表示法とステマ
不当景品類及び不当表示防止法(以下、「景品表示法」とよびます)は、消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限及び禁止を目的としています。そして、ステマが、事業者による広告であるにも関わらずそれを隠す宣伝行為であることから、消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為として景品表示法違反になるのではないかといわれてきました。
この点、景品表示法5条は、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示のうち、
(1)優良誤認表示(商品又は役務の品質、規格その他の内容についての不当表示)
(2)有利誤認表示(商品又は役務の価格その他の取引条件についての不当表示)
を不当表示にあたるものとして規制しています。
しかし、不当表示に該当するかの判断は、表示内容に(1)優良誤認表示又は(2)有利誤認表示が無ければならないところ、これに該当しないステマは規制されていませんでした。
そこで、景品表示法5条において不当表示行為と定められている、(3)「商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの」という規定により、ステマが規制されることになりました。
具体的には、内閣総理大臣が、景品表示法5条3項に基づき、一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難な表示(①事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、②一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの)を指定することにより、ステマが規制されることになりました。
そして、当該規制は、2023年10月1日から施行されます。以下、上記の内閣総理大臣による当該指定内容について、詳しくみていきます。
内閣総理大臣による指定内容
(1)①事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示
上記の表示に該当するといえるためには、外形上第三者の表示のように見えるものが事業者の表示に該当することが前提となります。
この点、事業者の表示に該当するといえるためには、事業者が表示内容の決定に関与したと認められる必要があります。そして、事業者が表示内容の決定に関与したと認められる場合には、事業者が第三者をして表示を行わせる場合も含みます。具体例は、以下の通りです。
・事業者が第三者に対してSNSや口コミサイト等に自らの商品等に関する表示をさせる場合
・ ECサイトに出店する事業者が、ブローカーや商品の購入者に依頼して、ECサイトのレビューに表示させる場合
・ 事業者がアフィリエイトプログラムを用いた表示を行う際に、アフィリエイターに委託して、自らの商品等について表示させる場合
・ 事業者が他の事業者に依頼して、口コミ投稿を通じて、自らの競合事業者の商品等について、自らの商品等と比較した低い評価を表示させる場合
・事業者が第三者にSNSを通じた表示を依頼しつつ、自らの商品等について表示してもらうことを目的に、当該商品等を無償で提供し、その提供を受けた第三者が事業者の方針や内容に沿った表示を行うなど、客観的な状況に基づき、表示内容が第三者の自主的な意思によるものとは認められない場合
・事業者が第三者に自らの商品等について表示することが、当該第三者に経済上の利益をもたらすことを言外から感じさせたり(遠回しに第三者に自らとの今後の取引の実現可能性を想起させるなど)、言動から推認させたりする(今後の取引の実現可能性に言及することなど)などの結果、第三者が事業者の商品等について表示を行うなど、客観的な状況に基づき、表示内容が第三者の自主的な意思によるものとは認められない場合
反対に、事業者が第三者をして表示を行わせた場合に、事業者が表示内容の決定に関与したとはいえない場合の具体例は、以下の通りです。
・事業者が第三者に自らの商品等を無償で提供し、SNS等による表示を依頼するものの、第三者が自主的な意思に基づく表示を行う場合
・事業者が自らの商品の購入者に対しECサイトのレビュー機能による投稿に対する謝礼に、割引クーポン等を配布する場合で、事業者と購入者との間で購入者の投稿内容について情報のやり取りが一切行われておらず、客観的な状況に基づき、購入者が自主的な意思で投稿内容を決定したと認められる場合
・事業者がSNS上で行うキャンペーン等に応募するために、第三者が自主的な意思に基づく内容としてSNS等に表示を行う場合
・事業者が自社のウェブサイトの一部で、第三者の表示を利用する場合で、第三者の表示を恣意的に抽出することや、第三者の表示内容に変更を加えることなく、そのまま引用する場合
・事業者が表示内容を決定できる程度の関係性にない第三者に、表示を行わせることを目的とせず商品等を提供した結果、第三者が自主的な意思に基づき表示を行う場合
(2)②一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの
この要件は、消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっているか、逆にいえば、第三者の表示であると消費者に誤認されないかを表示内容全体から判断します。消費者にとって事業者の表示であることが明瞭であるとはいえないものの具体例を、以下に記載します。
・冒頭に「広告」と記載しているにもかかわらず、文中に「これは第三者として感想を記載しています。」と事業者の表示であるかが分かりにくい表示をする場合
・動画で表示を行う際に、消費者が認識できないほど短い時間だけ事業者の表示であることを示す場合(長時間の動画で、冒頭以外にのみ表示をする場合を含む)
・事業者の表示であることを消費者が視認しにくい表示の末尾に表示する場合
・ 事業者の表示である旨を周囲の文字と比較して小さく表示する場合
・ 事業者の表示である旨を文章で表示しているものの、消費者が認識しにくいような表示(長文による表示、周囲の文字よりも小さい表示、 他の文字より薄い色を使用した表示など)となる場合
・ 事業者の表示であることを他の情報に紛れ込ませる場合(SNSの投稿で、大量のハッシュタグを付した文章の記載の中に事業者の表示である旨の表示を埋もれさせる場合など)
反対に、消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっているものの具体例は、以下の通りです。
・ 新聞紙の広告欄のように「広告」等と記載されている表示を行う場合
・ 商品等の紹介自体が目的である雑誌その他の出版物で表示を行う場合
・ 事業者自身のウェブサイトで表示を行う場合
・ 事業者自身のSNSのアカウントを通じた表示を行う場合
ステマ規制に違反した場合
ステマ規制に違反した場合、景品表示法5条3号に違反したことになり、行政上の処分としての措置命令(同法7条)及び課徴金納付命令(同法8条)を受ける可能性があります。
措置命令とは、事業者に対して違法行為を改善するように促す命令のことです。誤認を排除するのはもちろんのこと、再発防止策も講じる必要があります。
また、措置命令を受けた事実は公表されるため、企業の信用が失墜し、消費者や取引先企業の離反がおこる可能性もあります(いわゆる、レピュテーションリスクです)。
課徴金納付命令とは、処分の対象となった商品やサービスの売上高か、政令で定める方法によって算定された売上高に対して、3%を乗じた金額を納付しなければいけません。ただし、課徴金が150万円以下になる場合などは、納付の対象外です。
また、事業者が措置命令に従わない場合、刑事上の処分として、2年以下の懲役または300万円以下の罰金、またはその両方が科されることになります。また、法人等に対しては、3億円以下の罰金が科せられます(同法36条、38条)。
まとめ
ステマ規制に違反した場合には、刑事罰を含む重大な制裁を受けることになってしまいます。そして、SNSの浸透により、意図しないかたちでステマ規制に違反してしまうような場合も十分に考えられます。ステマと誤認されることがないよう、貴社において公開を予定している記事等について、内容をご確認いただければと思います。
※本記事は、2023年6月時点の情報をもとに記載いたしました。