COLUMN / SEMINAR
英文契約書
英文契約書の分離可能性条項(severability)の扱いについて
2020.05.01
前回に続きまして、今回は、分離可能性条項についてです。
分離可能性条項とは
「分離可能性条項」とは、例えば、契約書中の一つの条項が、適用される法律に違反するなどの理由により無効とされたり、執行できないとされた場合であっても、その契約書に規定される他の条項の有効性や執行可能性について、影響を与えるものではないということを規定する条項です。
具体的には、
- 本契約の一部又はある規定が管轄権を有する裁判所又はその他の審判所により執行不能又は無効と宣言されても、本契約のその他の部分又は規定の有効性は一切影響を受けないものとする。
- In the event that portions or provisions of this Agreement are declared unenforceable or invalid by a court or other tribunal of competent jurisdiction, the validity of any other portions or provisions of this Agreement shall not be thereby affected in any way whatever.
というように規定する条項をいいます。
他の条項に影響を与えないという点だけではなく、これに加えて、無効または執行不能となった規定についても、適用される法律の下有効かつ執行可能な、契約締結時の両当事者の意図にできるだけ即した代替的な条項に読み替えられる(つまり、できるだけ近しい内容で、且つ、有効で執行可能な規定に読み替える)とか、そういった代替規定に合意するよう両当事者間で協議する、というような内容を規定する場合もあります。
その場合の規定内容としては、
- 本契約の当事者は、無効又は執行不能とされた契約の一部又は条文について、できる限り当初の意図を反映するよう修正すべく協議する義務を負う。
- The Parties shall negotiate to modify the invalid or unenforceable portion or provision to reflect the original intent of the Parties as closely as possible.
というような案があります。
この分離可能性条項は、あまり日本の企業間の契約書においては入っている例は多くないですが、国際的な取引の場合には、定められている例が多いように思います。
というのも、国内の契約であれば、通常日本法が適用されますので、無効であったり執行不能な規定が含まれている契約書が使用されることが少なく、また、法改正された場合にも把握が容易です。
一方、国際取引の場合には、相手国の法律が準拠法とされ、適用されることもありますし、準拠法を日本法としておいても、条文の内容によっては、相手方企業の国の法律が強制的に適用される場合もあり得ます。
そのため、いずれかの条文が予期せず無効であるとか、執行不能とされるリスクが、日本国内の取引と比して、格段に高いこととなります。また、締結当時は有効、執行可能であったとしても、法律が改正されて、無効となったり執行不能となったりする場合もあり、この場合も国内の場合と比して把握が困難です。
したがって、こういった分離可能性条項を入れて、他の条項まで無効とされないように規定したり、できるだけ当初の意図を反映する類似の条項に読み替えるというような規定を置いておくということになります。
以上の通り、「分離可能性条項」は、意図せず契約書の条項やその一部が無効になったような場合に、その影響をできるだけ最小限とするための規定と言えますので、特にどちらの当事者に有利というものではないですし、国際取引の場合には入れておいた方が良いかもしれません。