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消費者契約法の改正について

2024.03.21

ECサイト(インターネット上で商品やサービスを販売するウェブサイト)の普及や成人年齢の引き下げなど、消費者契約を取り巻く環境が変化し、十分な消費者保護を図るため、2022年5月25日に消費者契約法を改正する法律が成立し、2023年6月1日から施行されることとなりました。消費者契約法の改正は、多くの企業に関係するトピックであることから、改正法成立時から注目されてきました。

そこで、すでに施行済みではありますが、複数のお客様からご要望をいただいたこともあり、今回改めて取り上げたいと思います。

主な改正事項

主な改正事項としては、①契約取消権の追加、②解約料の説明義務、③免責範囲が不明確な条項の無効、④事業者の努力義務の拡充の4つが挙げられます。

特に、③の改正では、不明確な免責条項を定めている場合、これまでは有効と考えられてきた条項も無効と解される可能性があり、利用規約など消費者との契約の内容をあらためて確認する必要があります。改正内容の概要については、消費者庁のウェブサイトにも記載がありますので、こちらもご参照ください。

①消費者の契約取消権について

 消費者契約法(以下、「法」といいます。)は、事業者が不当な勧誘行為を行い、それにより消費者が困惑して契約締結に至った場合、消費者の契約取消権を認めています。そして、今回の改正で、不当な勧誘行為とみなされる類型が追加されました。追加された類型は、以下の3つです。

(1) 勧誘をすることを告げず、退去困難な場所に同行し勧誘した場合(法第4条3項3号)
 例えば、観光などと契約とは関係のない理由を告げて、人里離れた場所に消費者を連れ出した上、その場所で商品の購入を促した場合などが考えられます。

(2) 威迫する言動を交えて、消費者の相談連絡を妨害した場合(同項4号)
 例えば、消費者が契約の締結にあたり「電話で夫に相談したい」などと告げたにもかかわらず、事業者が「それは駄目だ」などと伝え、強引に契約を締結させた場合などが考えられます。

(3) 契約前に目的物の現状を変更し、原状回復を著しく困難にした場合(同項9号)
 例えば、不用品買取りのために訪問した事業者に対して、消費者が貴金属を見せたところ、査定と称して切断したといった場合などが考えられます。

②解約料の説明の努力義務について

 事業者は、契約解除に伴う解約料等を定めた契約条項に基づいて解約料等を請求する場合、消費者の求めに応じて、解約料等の算定根拠の概要について説明する努力義務が課されることとなりました(法第9条2項)。

また、適格消費者団体(不特定かつ多数の消費者の利益を擁護するために差止請求権を行使するために必要な適格性を有する消費者団体として内閣総理大臣の認定を受けた法人のことをいいます。)は、契約条項に定められた解約料等が平均的な損害額を超えると疑うに足りる相当な理由がある場合には、事業者に解約料等の算定根拠の説明を要請することができます(法第12条の4第1項)。そして、事業者は、営業秘密が含まれる場合などの正当な理由がある場合を除き、その要請に応じるよう努めなければならなりません(同条2項)。

 事業者に課せられる努力義務は、消費者との関係では解約料等の算定根拠の「概要」の説明にとどまるものの(法第9条2項)、適格消費者団体との関係では、算定根拠それ自体を説明する必要があります(法第12条の4)。つまり、要請に従って、具体的な数字を含めた費用項目や算定式について説明する努力義務を負うことになります。したがって、事業者は契約条項に定められた解約料等が適正な価格であり、平均的な損害の額といえるか、改めて確認することが推奨されます。

 また、事業者は、消費者に対して契約締結時に消費者の権利義務など契約内容について必要な情報を提供するようと努めなければなりません(法第3条1項2号)。したがって、事業の性質上、解約料等が高額になる場合等、消費者にとって解約料等の定めが契約締結に必要な情報にあたりうると考えられる場合には、契約締結時から解約料等の算定根拠に関する説明を行っておくことが望ましいと考えられます。

③免責範囲が不明確な条項は無効とされることについて

 これまでの消費者契約法では、事業者の損害賠償責任の一部を免除する条項は、事業者に故意又は重大な過失がある場合に無効と定められていましたが(法第8条1項2号、4号)、この点を曖昧にした規定(故意又は重過失の場合を除外せず、損害賠償の範囲を限定したり、上限額を定めた規定など)の有効性については定められていませんでした。そのため、事業者があえて不明確な免責範囲を定め、本来は損害賠償責任を負うべき場合であっても、消費者に損害賠償請求をためらわせ、正当な請求を回避してきたという状況がありました。

そこで、今回の改正により、事業者の損害賠償責任の一部を免除する条項を定める場合、当該免責条項は事業者が軽過失の場合に限り有効であることを明確に記載するよう求めることとしました。

そして、事業者が軽過失の場合に限り有効であることを明確に記載されているか否かの判断は、事業者の軽過失の場合のみ免責条項が適用されることが一般的・平均的な消費者にとって明らかになっているか否かで判断されることとなります。なお、不明確と解される場合には、仮に事業者に軽過失しか認められない場合であっても、免責条項は無効となり、民法の一般原則によることになるため注意が必要です。有効な例及び無効と解される可能性がある例は、以下のとおりです。

 (1) 有効な例
 前述のとおり、事業者の損害賠償責任の一部を免除する条項が有効であるといえるには、当該免責条項は事業者が軽過失の場合に限り有効であることが、一般的な消費者にとっても理解できるよう明記する必要があります。

例えば、
・「当社に、故意又は重大な過失がある場合を除き、当社がユーザーに負う責任は、ユーザーから実際に支払いがあった検定受験料の額を超えるものではないとします。」
・「当社に軽過失がある場合には、○万円を上限として賠償します。」
といった例が考えられます。

(2) 無効と解される可能性のある例
 事業者の損害賠償責任を免除する条項において、「関連法令に反しない限り」といった留保文言が付けられ事業者の免責範囲がどのように限定されるか一般的な消費者には判断が難しいといえる条項は、無効と解されます。

具体的には、
・「法律上許される限り、賠償限度額を○万円とします。」
・「関連法令により許される限り、当社は損害賠償責任を負わないものとします。」
といった条項は、無効になると考えられます。

④事業者の努力義務の拡充について

 今回の消費者契約法改正では、事業者の努力義務として、(1)契約の締結に際し、消費者の知識・経験に加えて、年齢・心身の状態も総合的に考慮し情報提供を行うこと(法第3条1項2号)、(2)定型約款の表示請求権に関する情報提供を行うこと(同項3号)、(3)契約締結時だけでなく解除時にも情報提供を行うこと(同項4号)などが定められました。努力義務の内容や改正の経緯等の詳細は、以下のとおりです。

(1) 契約内容に関する情報提供
 消費者契約では、消費者と事業者に情報の格差があることから、個々の消費者の理解に応じた丁寧な情報提供を行うことが望ましいと考えられてきました。そこで、従前より、消費者の「知識及び経験」を考慮の上で、情報提供を行うことが求められていましたが(改正前第3条1項2号)、消費者の理解の不十分さを伺わせるという観点からは、「年齢」や「心身の状態」も重要と考えられます。

そこで、今回の改正では、「知識及び経験」に加え、「年齢」や「心身の状態」について事業者が知ることができた場合、それらの事情も総合的に考慮して情報提供を行うよう、事業者に努力義務が定められました。

例えば、契約締結時に、消費者が若年者や高齢者であることが判明したのであれば、必要に応じて、消費者の「年齢」にあわせ、一般的な消費者より基礎的な内容から説明するといった対応が望まれます。また、対面取引等で、消費者の判断力が低下していることを知ることができたのであれば、必要に応じて、「心身の状態」を考慮して説明することが求められることとなります。

(2) 定型約款の表示請求権に関する情報提供
 民法は、定型約款を準備し、当該約款を契約の内容としようとする者は、契約締結の前後に相手方から請求があった場合、当該約款の内容を示さなければならないと定めています(民法第548条の3第1項。以下、この請求権について「定型約款の表示請求権」といいます。)。しかし、相手方が消費者の場合、定型約款の表示請求権について知らないことも多いと考えられることから、今回の改正では、必要な情報を提供するよう事業者に努力義務が定められました。

 事業者は、定型約款の表示請求権の存在に加えて、消費者が請求する場合の事業者の連絡先や請求時に必要な書式等について情報提供するよう努める必要があります。
ただし、消費者が定型約款の内容を容易に知ることができるよう事業者が何らかの措置を講じている場合には、定型約款の表示請求権に関する情報提供の努力義務は課されません。

(3) 消費者の解除権の行使に関する情報提供
 今回の改正では、消費者の求めに応じ、消費者が有する解除権の行使に関して必要な情報を提供するよう努める義務が事業者に課されました。
 事業者は、消費者契約を解除する際の具体的な手順等について情報提供することが求められます。解除の手続きについて、その方法や手順をウェブサイト上でわかりやすく説明するといった対応が推奨されます。

まとめ

 消費者が事業者と契約をするとき、両者の間には持っている情報の質・量や交渉力に格差があります。このような状況を踏まえて消費者の利益を守るため、平成13年4月1日に消費者契約法が施行され、社会情勢を踏まえて数度改正されてきました。消費者契約法は、多くの企業に関係する法律であるのと同時に、たびたび改正されることから、ご注意いただければと思います。

※本記事は、2023年7月時点の情報をもとに記載いたしました。


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