法務サポートコラム

英文契約書の読み方 ~その6~ 管轄について(後編)

2020年05月29日配信

今回も、英文契約書特有の条項について解説します。第6回目は、前回に引き続き「管轄」についての続きです。
前回は【先進国の企業が相手方だった場合】のお勧めの管轄規定について書きましたが、今回は、【中国やアジアなどの発展途上国の企業が相手の場合】についてです。

 


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中国やアジアなどの場合の「管轄」は、日本の裁判所で良いのか?

中国やアジアなどの発展途上国の企業が相手であっても、米国などの場合と同様に、「東京地裁など日本の裁判所に専属的管轄権があると規定してもいいものか?」、よく聞かれますが、これは絶対にお勧めできません。

これは、日本の裁判所で判決を取得しても、相手方企業が日本に財産を保有していない場合には、支払いを強制することができないからです。

 

より詳細に説明すると、まず、例えば中国の企業との間で契約に関して紛争が発生したとして、契約書に、「この契約から又はこの契約に関連して生ずることがあるすべての紛争、論争又は意見の相違は、第一審について、東京地方裁判所の専属的管轄権に服する。(All disputes, controversies or differences arising out of or in connection with this Agreement shall be filed to the Tokyo District Court as the court of first instance with exclusive jurisdiction.)」と規定されていた場合を考えます。

 

この規定に基づき、東京地方裁判所で裁判をすることはでき、相手方企業が応訴して争われても、ちゃんと自社の権利を基礎づける証拠があれば勝訴できるでしょうし、もし相手が出てこなければ欠席判決で勝訴判決を得ることもあり得ます(但し、外交ルートで訴状を相手方企業に送達してもらうなどの手続きが必要になりますので、日本国内の企業が相手方の場合に比べて時間がかかります。)。

 

しかしながら、勝訴判決を得たとしても、相手方企業が任意に支払ってくれなければ、絵に描いた餅になってしまいます。

というのも、国内企業であれば、勝訴しても任意に支払ってくれない場合、勝訴判決に基づき相手方の不動産や銀行口座や取引債権を差し押さえることもできますので、強制的に支払いを求めていくことができます。前回のブログで記載した通り、米国や英国等の企業の場合も、一旦相手方の企業の国の裁判所の手続きを経る必要はあるものの、日本の裁判所の判決を、外国裁判所の助けを借りて執行(不動産、口座や取引債権等を差し押さえて強制的に支払わせること)することができます。

 

そのため、相手方企業も執行されるまでに支払うのが一般的です。

しかしながら、中国やアジアの発展途上国等の企業が相手方の場合、これらの国の裁判所は、日本の裁判所の判決の効力を認めて、執行に協力してくれません。支払いを強制されないことが分かっているため、勝訴判決を得ても、相手方が任意に支払わないことが多く、その場合、取りうる手段がないということになるのです。

 
 

 
 

相手の国の裁判所を管轄にすれば良いのか?

それでは、相手方の国の裁判所はどうでしょうか。相手方企業が提案してきた契約書の案では、相手方の国の裁判所が専属的合意管轄となっている場合もあるかと思います。

しかしながら、これも絶対にお勧めできません。というのも、アジアの発展途上国等で裁判をした場合、日本企業側にちゃんと証拠等が揃っており、負けるはずがないと思うような事案であっても、驚くほど、自国の企業(相手方企業)に有利な判決となる例が散見されるためです。もちろん日本企業が勝訴する例もないわけではないですが、こういった国の裁判所での解決には、かなりのリスクが伴うように思います。

 

 

お勧めは、「仲裁」での解決

そのため、中国やアジアの発展途上国等との契約では、「仲裁」での解決がお勧めとなります。《過去コラム:仲裁って何?》仲裁の場合には、中国やアジアの発展途上国の多くがニューヨーク条約という仲裁の執行に関する条約の加盟国ですので、自社の権利を認める仲裁判断を出してもらえば、中国やアジアの国でもこれを執行できることとなるためです。

 

なお、仲裁での解決の場合には、どこの仲裁機関のルールによるのか、仲裁地はどこにするのかなどを、事前に契約書で定めておくのが一般的です。その際のお勧めとしては、日本企業としてはやはり日本での仲裁が簡便ですので、日本商事仲裁協会(JCAA)の仲裁規則に従い、日本国内で行うことをお勧めしています。具体的な文言としては、前回も記載しましたが、以下のような文言がお勧めです。

 

「この契約から又はこの契約に関連して生ずることがあるすべての紛争、論争又は意見の相違は、一般社団法人日本商事仲裁協会の商事仲裁規則に従って仲裁により最終的に解決されるものとする。仲裁地は東京とする。仲裁の言語は英語とする。(All disputes, controversies or differences arising out of or in connection with this Agreement shall be finally settled by arbitration in accordance with the Commercial Arbitration Rules of The Japan Commercial Arbitration Association.  The place of the arbitration shall be Tokyo.  The language of the arbitration shall be English.)」(日本商事仲裁協会(JCAA)のHPの仲裁文言参照。https://www.jcaa.or.jp/arbitration/clause.html

 

 

第三国での仲裁を提案する

なお、相手方がどうしても日本での仲裁はのめない、自国での仲裁が良いと主張した場合には、第三国での仲裁を提案するのもあり得る選択肢です。

その場合、アジア諸国の企業が相手方の場合、シンガポールが選択されることが多いようです。なお、シンガポールを選択する場合の仲裁機関については、シンガポールのSIAC(Singapore International Arbitration Centre)やICC(International Chamber of Commerce)が考えられます。これらを選択する場合の仲裁文言は、これらの仲裁機関のHPに最新のおすすめ条文案が掲載されています。

 

 

 

 


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