COLUMN / SEMINAR
下請法
下請法とは
2020.03.27
今回から3回に分けて、「下請法」について解説したいと思います。
1. 下請法とは
下請法とは、正式名称を「下請代金支払遅延等防止法」といい、親事業者と下請事業者の取引を公正なものとし、下請事業者の利益を保護することを目的とする法律です。
例えば、ある中小企業が大企業から持ち掛けられた取引を進めたところ、その大企業との取引がうまくいき、取引は拡大し、中小企業はその大企業との取引を核に安定した経営をすることができるようになりました。そうしたところ、大企業から、「これからも良い関係を続けたいから、うちの関連会社のこの製品を購入してくれ」と言われてしまいました。中小企業としては、その製品は必要ないのだけど、「これからも良い関係を続けたいから」ということは、購入を断ったら今後の取引がなくなってしまいそうです。
大規模な事業者(親事業者)が小規模な事業者(下請事業者)に対して発注する取引は各種様々ありますが、力関係として、大規模な発注者側の方がどうしても強大・優位になりがちという現状を踏まえて、大規模な事業者が小規模な事業者に発注する取引において、発注者側が受注者側に不利益を押し付けるのを防ぎ、発注者側の不当な要求から受注者側を守るための法律です。全部で15カ条にも満たない短い法律ではありますが、親事業者にとっても下請事業者にとっても重要な法律です。
例えば、下請事業者に責任がないにもかかわらず、親事業者が発注後に下請代金を減額することは禁じられています。また、親事業者における受領後の検収の遅れや、下請事業者から請求書が提出されていないことを理由に下請代金の支払日を遅らせることも禁じられます。
公正取引委員会は、親事業者や下請事業者に対して取引に関する報告をさせることができ、また、親事業者や下請事業者の事業所等に立ち入って書類等の検査をすることができます。親事業者は、下請法違反がある場合、公正取引委員会から違反行為を止めることや、原状回復、再発防止策を講じることなどを求める勧告をされます。勧告された場合は、企業名や違反事実等が公表されます。公正取引委員会のホームページでは、過去のものも含め、下請法違反の勧告を見ることができます。さらには、下請法違反がある場合、罰金となることもあります。
下請法は、下請事業者にとっては、「これは下請法違反です」と不当な要求を断って自身の利益を守るための重要な武器となるものです。親事業者にとっても、これを遵守しないと勧告と違反事実の公表の対象となり、今のご時世、下請法違反として公表されると「下請いじめ」などと悪評が立ち、企業価値が毀損されてしまうという重要な規律です。下請法は、日々の一つ一つの取引において問題となるものであるし、「つい起こりがちなこと」でもあることから、社内の法務担当者が知っていればよいだけではなく、実際の取引担当者も熟知していることが重要です。
2. 下請法の対象となる取引や事業者の規模
このような下請法ですが、どのような場合に適用されるのでしょうか。
下請法は、その規制対象となる下請取引を、取引の内容、発注をする事業者の資本金、受注する事業者の資本金から以下のように定めています。
したがって、自社の行っている取引がこれらに該当すれば、下請法の対象として、親事業者であれば義務事項や禁止事項を遵守しなければならず、下請事業者であれば親事業者の理不尽な要求等が下請法違反に当たるかもしれません。
「製造委託」とは、物品の販売や製造を行う事業者(販売業者、製造業者)が、規格、品質、形状、デザイン、ブランドなどを指定して、他の事業者に物品等(その物品、部品、付属品、原材料、半製品、これらの製造のための金型)の製造や加工などを委託することをいい、例えば、自動車メーカーが販売する自動車の部品の製造を部品メーカーに委託すること、スーパー等の小売業者がプライベートブランド商品の製造を製造業者に委託すること、精密機器メーカーが他から製造を請け負っている精密機器の部品の製造を部品メーカーに委託することが当たります。
「修理委託」とは、物品の修理を請け負っている事業者が、その修理を他の事業者に委託したり、自社で使用する物品を自社で修理する場合にその修理の一部を他の事業者に委託することをいい、例えば、自動車販売業者が、ユーザーから請け負った自動車の修理作業を他の修理業者に委託すること、自社工場の設備等を自社で修理している工作機器メーカーが、その設備の修理作業の一部を修理業者に委託することが当たります。
「情報成果物作成委託」とは、ソフトウェア、映像コンテンツ、各種デザインなど、情報成果物の提供や作成を営む事業者が、ほかの事業者にその作成作業を委託することをいいます。
この「情報成果物」というのは、①プログラム(ゲームソフト、会計ソフト、電化製品の制御プログラム、システム)、②映像や音声、音響により構成されるもの(映画、テレビ番組、テレビCM、ラジオ番組、アニメーション)、③文字、図形、記号などにより構成されるもの(設計図、商品のデザイン、雑誌広告)をいいます。
例えば、ソフトウェア開発業者が、消費者に販売するゲームソフトの作成を他のソフトウェア開発業者に委託すること、家電メーカーが、消費者に販売する家電製品の取扱説明書の内容の作成を他の事業者に委託すること、ソフトウェア開発業者が、ユーザーから請け負ったソフトの開発の一部を他の開発業者に委託すること、広告会社が、広告主から請け負ったCMの制作をCM制作会社に委託することは、この「情報成果物作成委託」に当たります。
「役務提供委託」とは、他者から運送、ビルメンテナンス、情報処理など各種サービスの提供を請け負った事業者が、請け負ったサービスの提供を他の事業者に委託することをいい、例えば、運送事業者が,請け負った貨物運送のうちの一部を他の運送事業者に委託すること、ソフトウェアを販売する事業者が、当該ソフトウェアの顧客サポートサービスを他の事業者に委託することが当たります。
なお、建設業法に規定する建設業を営む事業者が請け負う建設工事の下請けは、ここの「役務提供委託」からは除外されます。もっとも、建設工事の下請けについては、建設業法において下請法と類似の規定が置かれていて、下請事業者の保護が図られています。また、建設資材の販売をする建設業者が、その商品の製造を外部委託する場合には「製造委託」に、建設業者が設計図面の作成を他の事業者に委託する場合には「情報成果物作成委託」に当たります。
では、これらの下請法の対象取引に当たる場合、どのような義務事項や禁止事項があるでしょうか。次回、この義務事項や禁止事項をお話していきます。